この記事の要点(30秒サマリー)
高速道路でEVを走らせる時代、その裏側を支える会社#
長距離移動でEVを使うなら、避けて通れないのが経路充電だ。EVオーナーが高速道路サービスエリアで充電コネクタに触れる時、その充電器の整備を担っているのが、おそらくはe-Mobility Power(以下、eMP)である。
経産省の公表データによれば、日本の充電インフラは2024年度末で約6.8万口(急速約1.2万口、普通約5.6万口)。このうち急速充電器の約9割がeMPネットワークに接続されている(eMP公式)。1社の存在感がここまで大きい業界は珍しい。
それもそのはず、eMPは「会社を選んで使うサービス」というより、業界の調整インフラとしての性格が強い。1枚の充電カードで全国どこのSA・PAでも充電できる仕組みは、eMPの認証システムが裏側で動いている結果だ。

高速道路EV充電の現状: SA・PA急速充電の整備状況#
経産省検討会資料(2025年4月)によれば、高速道路SA・PAに整備されたeMPの急速充電器は2024年度末時点で約900口。前年度比+207口の増加だ(EVsmartブログによれば正確な数字は892口)。
特筆すべきは高出力化のスピードである。2024年度は150kW級の充電器が124口整備された。50kW未満の旧型は92口減少した一方で、90〜150kW未満が172口増、150kWが124口増。資料では「2024年度には高出力化、複数口化が進展。90kW以上が約2倍の口数(同+99%)となり、全体に占める割合も44%から67%に」と報告されている。
これは経産省が2023年10月に策定した「充電インフラ整備促進に向けた指針」の方針(2030年までに30万口、原則1口最大90kW以上)と完全に整合する動きだ。
整備加速の数字#
eMP公式の2024年度実績(2025年4月発表):
- 高速道路SA・PA: 110箇所で317口新増設
- 一般道(提携設置含む): 575口新設・更新
- ネットワーク全体: +3,161口(eMP直営+提携合計)
直近の月次拡大も継続している。2025年12月には1ヶ月で214箇所/372口の充電スポットが新たにサービス開始した(eMP公式)。

なぜ高速道路EV充電は『難しい』のか(構造的課題)#
EVの充電インフラ拡充において、高速道路は特に難しい領域とされる。eMPが経産省検討会に提出した資料(2021年)からも、構造的な4つの課題が浮かび上がる。
| # | 課題 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 設備老朽化 | 2014年大型補助金で一斉設置された充電器が2022〜2024年に更新ピーク |
| 2 | 充電渋滞 | 高稼働SA・PAで「黒リーフ(待ち)+自分の充電」で60分超の待機 |
| 3 | 空白区間 | 高速道路で70km以上充電器がない区間が18箇所、100km以上が11箇所(2021年時点) |
| 4 | 高出力化要請 | EVのハイスペック化に追従するため、50kW→90/150kW級への更新が急務 |
特に充電渋滞は深刻だ。1基1台しか充電できない旧型充電器では、前の車が30分使えば次の車は最低30分待つ。これが「黒リーフ問題」と呼ばれる現象を生む——白リーフが待機中で30分、自分の充電で30分、合計60分のロス。
eMPはこれに対し、1拠点に複数口設置と高出力化の二軸で対応する。前述の「赤いマルチ」(150kW × 4口、総出力400kW)はこの戦略の象徴的な製品だ。
充電渋滞や空白区間の解消は、技術的には充電器の増設・高出力化で解決する。だが現実の制約は「NEXCOのSA・PA改修計画との同期」「電力供給インフラの容量」「採算が取れない地域の整備」など、単純な技術問題ではない。eMPが東京電力HD出資企業として電力インフラに精通し、自動車メーカー4社が均等出資する『業界連合』の形を取っているのは、こうした多層的な調整を可能にするための構造設計と読める。
e-Mobility Powerとは: 株主構成と設立経緯#
eMPは2019年10月に、東京電力ホールディングスと中部電力の共同出資で設立された。当初は両社のみの出資だったが、2021年4月に第三者割当増資により自動車メーカー4社と日本政策投資銀行(DBJ)を新たに迎え、現在の7社株主体制が完成した。

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社e-Mobility Power |
| 本社 | 東京都港区港南2-13-34 NSS-Ⅱビル7階 |
| 代表 | 四ツ柳 尚子(東京電力HD出身) |
| 設立 | 2019年10月1日 |
| 出資金 | 200億円 |
| 株主構成 | 東京電力HD 54.7% / 中部電力 36.4% / トヨタ 1.9% / 日産 1.9% / ホンダ 1.9% / 三菱自動車 1.9% / 日本政策投資銀行 1.3% |
| 公式サイト | https://www.e-mobipower.co.jp/ |
設立の前史として、2014年5月に設立された**合同会社日本充電サービス(NCS)**がある。NCSはトヨタ・日産・ホンダ・三菱自動車の自動車4社と日本政策投資銀行・東京電力エナジーパートナー・中部電力の7社が出資し、自動車メーカー共通の充電カードインフラを運営していた。
2021年4月、NCSの充電サービス事業はeMPに吸収分割で承継された。これにより、自動車メーカー連合のインフラと電力会社のインフラが一本化され、現在の体制が完成した。
eMPが東京電力HDの過半数出資企業でありながら、自動車4社が均等な少額出資で並ぶ株主構成は、業界全体の利益調整を成立させるための絶妙な設計だ。電力会社が多数株主として責任主体となり、自動車メーカー4社が競合関係を超えて均等出資することで、特定メーカーに偏らない『中立インフラ』としての立ち位置を確保している。
eMPネットワークの規模感: 直営と提携の二重構造#
eMPの充電ネットワークには2つの層がある。
①eMP直営の急速充電器 高速道路SA・PA、主要幹線道路沿いなどに自社で設置・運営する充電器。2024年度末時点で約900口。
②一般提携充電器 自動車ディーラー、商業施設、宿泊施設、自治体などのパートナーが設置し、eMPの認証システムに接続している充電器。2025年3月時点で急速約2,500口、普通約8,400口。
両者の合計が「eMPネットワーク」となり、2025年3月時点で25,000口以上の規模に達している。
| 区分 | 急速 | 普通 |
|---|---|---|
| eMP直営 | 約900口(SA・PA) + 一般道 | — |
| 一般提携 | 約2,500口 | 約8,400口 |
| eMPネットワーク全体 | 約9,800口 | 約15,500口 |
※2025年3月時点。2026年4月の最新数字はeMP公式サイトを参照。
EVユーザーから見れば、自動車メーカー(トヨタ・日産・ホンダ・三菱)の充電カードや、エネゲート、トヨタコネクティッド、BIPROGY、NEC、ENECHANGEなど認証アプリ事業者6社のサービスから、いずれも同じeMPネットワークの充電器が使えることになる。
eMPの強み: 3つのコア能力#
① NEXCO3社との共同整備体制#
eMPが他社と決定的に違うのは、NEXCO東日本・中日本・西日本との共同整備体制を持っていること。高速道路SA・PAへの充電器設置は、駐車マス確保・電力供給・ユニバーサルデザイン対応・補助金活用など多層的な調整が必要で、これを単独事業者で進めることは事実上不可能だ。
eMPは、NEXCO3社と共同で2025年度末までに高速SA・PA急速充電器を約1,100口に拡大する計画を持つ。この数字は2020年末からの5年間で約2.7倍に相当する(NEXCO東日本2023年発表)。

② 自社開発の超急速充電器#
eMPは充電器メーカーであるニチコン株式会社と共同で、業界最先端の充電器を開発している。
- 赤いマルチ: 4口マルチコネクタタイプ(総出力400kW、1口最大150kW)。2025年2月までに全国14箇所のSA・PAに整備
- 青いマルチ: 6口マルチコネクタタイプ(総出力200kW、1口最大90kW)。23箇所に設置済、2024年12月までにパワーシェアリング機能改良完了
- 次世代350kW充電器: 株式会社東光高岳と共同開発中。2025年3月にCHAdeMO 2.0.2認証取得(最大350kW/口、最大電圧1,000V)。CHAdeMO規格でこのスペックの認証取得は世界初
③ 1枚カードで全国網#
eMPの最も特徴的な強みは、認証基盤システムだ。発行者や料金プランが異なる充電カードでも、設置者・メーカー・型式が異なる充電器でも、1枚のカードでスムーズに充電できる仕組みを運用している。
2025年4月にはこの認証システムを「eMP統合認証システム」としてリニューアル。設置事業者向けのポータルサイトを刷新し、稼働状況管理や休止情報入力を一元化した。
業界において、この認証基盤を持っていることが、eMPの「調整役」としての立ち位置を物理的に支えている。
テラチャージ・エネチェンジとの比較・棲み分け#
業界の主要3社を、設置数と強みの観点で整理する。

| サービス | 急速充電 | 普通充電 | 主な強み | 関連記事 |
|---|---|---|---|---|
| e-Mobility Power | 約9,800口 | 約15,500口 | 高速道路SA・PA、業界認証基盤 | (本記事) |
| テラチャージ | 約1,005口 | 約32,000口(基礎充電含む) | 集合住宅向け基礎充電、無料設置プラン | テラチャージ徹底解説 |
| EV充電エネチェンジ | - | 約10,165口(2026年1月、公共用) | 商業施設向け6kW普通充電 | EV充電エネチェンジ徹底解説 |
※2026年4月時点の各社公開情報をもとに作成
使い分けの観点:
- 長距離移動の経路充電 → eMPが急速充電網で優位、ほぼ唯一の選択肢
- マンション・集合住宅での基礎充電 → テラチャージが選択肢として有力
- 商業施設での目的地充電 → エネチェンジ、テラチャージともに展開中
注目すべきは、エネチェンジがeMPネットワークに接続している認証アプリ事業者の1社でもあるという点だ。EV充電業界は表面的には競合関係に見えるが、認証基盤や充電ネットワークの相互接続を通じて、実は深く相互補完している。eMPはこの『業界の土俵』を提供する役割を担っており、他事業者を排除するのではなく、共通インフラを通じて全体のEV普及を底上げする構造を作っている。
最近の動向(2025〜2026)#
2025〜2026年に入り、eMPは「整備フェーズ」と「次世代開発フェーズ」を並行で進めている。
- 2024年10月: kWh課金(従量制課金)に関する実証実験を神奈川県内2箇所で開始
- 2025年2月: 「赤いマルチ」を全国14箇所のSA・PAに整備完了
- 2025年3月: 350kW超急速充電器でCHAdeMO 2.0.2認証取得(世界初)
- 2025年4月: 「eMP統合認証システム」をリニューアル、設置事業者向けポータルサイト刷新
- 2025年4月以降: kWh課金実証実験をビジター利用に限定して継続
- 2025年12月: 月次新規サービス開始 214箇所/372口(過去最大級の月次拡大)
特に注目すべきは、350kWの超急速充電器だ。CHAdeMO規格でこのスペックの認証取得は世界初。同社が展望する「2030年代の充電インフラ」では、より高出力・短時間・利便性重視の方向にシフトする見込みだ。
四ツ柳社長は2021年のEVsmartインタビューで、現在の整備フェーズを**「一周目」から「二周目」への転換**と表現している。一周目は2013〜2015年に補助金主導で全国に整備された人口カバー率93%の急速充電網。これは「設置できるところに設置された」段階で、稼働率の低い充電器も多く含まれていた。二周目は、稼働率の低い充電器の撤去・移設も含めながら、合理的に再設計するフェーズだという。
「一周目から二周目へ」という言葉は、業界全体のフェーズ転換を象徴している。EV充電インフラはもはや「とにかく増やす」段階ではなく、「使われる場所に、使われる仕様で、使われる規模で整備する」段階に入った。これは事業として成立させるための必然的な進化であり、eMPの整備計画はこの市場成熟プロセスを牽引している。
まとめ: 業界の調整役としてのeMPの位置づけ#
EV普及における高速道路充電の課題は、経産省の整備指針(2030年までに30万口)、NEXCO3社との共同整備体制、自動車メーカー連合の出資基盤——この3つが組み合わさることで、ここ数年で着実に前進している。
e-Mobility Powerは、この領域でネットワーク総数25,000口超、特に高速道路SA・PAでの急速充電網を担う事業者として、長距離EV移動の現実性を支える基盤になっている。一方で、マンション基礎充電や商業施設目的地充電は他事業者(テラチャージ、エネチェンジ等)が主役を務める領域で、eMPはこれらの事業者の充電器も含めて認証基盤に統合する『業界の土俵』の役割を担う。
「自宅充電が難しいからEVを諦めていた」マンション居住者にとってはテラチャージが選択肢を広げる一方、「長距離移動が不安だからEVを選ばない」というドライバーにとっては、eMPの整備計画が現実的な後押しになる。
EVの利用シーンに応じて、複数事業者の使い分けが当たり前の時代に入りつつある。そしてその使い分けを意識せずに済む統合体験を、業界の裏側でeMPが支えている。
関連情報#
- EV充電スポットを探す: EV充電どこ? で全国の充電スポット5,500件以上を地図検索
- e-Mobility Power公式サイト: https://www.e-mobipower.co.jp/
- テラチャージとの比較: 【テラチャージ徹底解説】マンションでEV充電できない問題、どう解決する?
記事内で参照したデータ・情報源#
公的機関(一次情報)#
- 経済産業省「充電インフラ整備促進に関する取組」(整備状況、政策目標) https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/charging-infra-fukyu.html
- 経済産業省「充電インフラの整備に関する取組」(設置数データ資料、2025年3月時点の場所別設置数・出力) https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/automobile/setseibizyoukyou.pdf
- 経済産業省「充電インフラ整備促進に向けた指針」本文PDF(2023年10月) https://www.meti.go.jp/press/2023/10/20231018003/20231018003-1.pdf
e-Mobility Power公式#
- 「2024年度の急速充電ステーション整備実績について」(2025年4月30日) https://www.e-mobipower.co.jp/news/5371/
- 「e-Mobility Powerネットワークの『充電実績データ(2025年度3Q)』を公開」(2026年1月) https://www.e-mobipower.co.jp/news/6205/
- 「新たにサービスを開始した充電スポットについて(2025年12月)」(2026年1月) https://www.e-mobipower.co.jp/news/6175/
- 「急速充電ステーションの整備計画と急速充電器の新規開発・改良のお知らせ」(2024年4月) https://www.e-mobipower.co.jp/news/4178/
- 会社概要 https://www.e-mobipower.co.jp/company-overview/
- eMPネットワーク提携(一般提携) https://www.e-mobipower.co.jp/owner/
株主・出資情報#
- 東京電力ホールディングス「株式会社e-Mobility Powerへの出資について」(2021年4月) https://www.tepco.co.jp/press/release/2021/1592825_8711.html
- トヨタ自動車「株式会社e-Mobility Powerへの出資について」(2021年4月) https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/35041962.html
- 日本政策投資銀行「(株)e-Mobility Powerへの出資について-『グリーン投資促進ファンド』第一号案件として出資決定-」 https://www.dbj.jp/topics/dbj_news/2020/html/20210212_203105.html
業界分析・社長インタビュー#
- EVsmartブログ「『電気自動車充電インフラの近未来』イーモビリティパワー四ツ柳社長インタビュー」(2021年) https://blog.evsmart.net/charging-infrastructure/e-mobility-power-president-ms-yotsuyanagi-interview/
- EVsmartブログ「イーモビリティパワー 四ツ柳社長インタビュー/日本のEV充電インフラはどうなっていく?」(2024年3月) https://blog.evsmart.net/charging-infrastructure/e-mobility-power-president-yotsuyanagi-interview-japan-ev-charging-future/
- EVsmartブログ「電気自動車充電インフラ整備の進捗状況/EV普及を支えるための拡充が着実に進展中」(2025年6月) https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/electric-vehicle-charging-infrastructure-progress-ev-adoption-support-expansion/
- レスポンス「EV充電:インフラ事業としての難しさへの挑戦…e-Mobility Power代表取締役社長 四ツ柳尚子氏[インタビュー]」(2022年4月) https://response.jp/article/2022/04/08/356046.html
NEXCO3社共同発表#
- NEXCO東日本「2025年度までにEV急速充電器を約1,100口に増設」(2023年3月) https://www.e-nexco.co.jp/pressroom/head_office/2023/0329/00012398.html
関連事業者(本記事内で言及)#
- テラチャージ公式サイト https://terra-charge.co.jp/
- EV充電エネチェンジ https://ev-charge-enechange.jp/
最終更新日: 2026年4月25日 字数: 約3,800字(FAQ・参考データ部分含む) 図版マーク: 5箇所(記事内に「🖼️ 図版N」として明示)